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岡山家庭裁判所笠岡支部 事件番号不詳 決定

少年 M(昭一九・一一・一六生)

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

(犯罪事実)

少年は昭和三四年四月二八日午後零時二五分頃、○○市×××町△△△番地所在の○○中学校×××校舎二階三年B組教室に於て、三年生N(当一四年)と些細のことから口論し、憤激の余り同人を殺害せんことを決意し、所携の工作用切出小刀を持つて同人左胸部を突刺し、よつて同人をして心臓刺創による出血のため間もなく同校職員室に於て死亡するに至らしめたものである。

(刑罰法条)

刑法第一九九条

(初等少年院に送致した理由)

一、少年の父亡Oは昭和一九年一一月三日即ち少年の出生する十数日前に死亡したので、少年の母R子は昭和二四年頃迄O家に留つて少年を養育していたが、少年を祖父母に託して再婚の為めO家を去つたものである。

二、母の去家の後は祖父母の手で養育され、○○幼稚園、○○小学校、○○中学校(○○校舎)と順次進学したが、祖父母は少年の教育につき無関心、放任、加うるに祖父の若い妾が同居しこれに少年と同輩の女の子があつて、それとの差別待遇等のことがあつて、家庭環境は良好でなく、既に小学校在学当時から欠席が多く、登校を装つて山や川に行つて遊び廻り或は家庭の金品を持出して買喰をする等問題の行動があつた。又中学に進学してからはその傾向が著しく、朝学校に来ていても何時の間にか脱出して遊び廻り、金があれば映画見物探偵物、漫画本等を読耽り、神社の屋根の銅板を剥取つて売り或は小学生から金を詐取する等の非行多く、中学一年に於ては三分の二怠学の為め欠席するに及んで、学校当局は祖父、実母に連絡し保護者に於て協議の結果、昭和三三年五月末実母の許に引取らせ、×××中学校(現在○○中学校×××校舎)に転校したものである。

三、母は前記の如く少年をO家に残して昭和二四年暮頃、Sと結婚し三子を儲けたが、その夫が大酒飲みの為め円満に行かず三子を連れて昭和二七年七月頃離婚し、爾来工場の炊事婦、女工等して独立の生計を営み、現在では勤務先の○○市×××町△△工業株式会社の織物工場の一部を借受け、そこに母は後夫の子二人(一人は実母の母即ち少年の母方の祖母に養育を託している。)と共に起居して居り、同所に少年を前記の如く昨年五月末に引取つて、現在に至つたものである。

四、少年の犯行の当日(昭和三四年四月二八日)に於ける学校の教科は二時間目音楽、三時間目英語、四時間目国語であつたが、少年は被害者と音楽の時間からふざけて居り、国語の時間にも私語してふざけ「殺すのなら殺して見い、一〇分以内に殺したら一万円やる」等と云つたこともあつたが授業中の為め、その儘ですんだ。ところが、国語の授業を終つた際、被害者が少年に対し「とうとう、よう殺さなんだなあ。」と云つたので、少年が嚇となつて左手で被害者の襟元を握り、右手で所携の切出小刀をポケツトから取出し、突嗟に被害者の左胸部に突刺したので被害者は数歩歩いて倒れこれを通り懸りの教師が認めて職員室に連れて行かれたのを見て昼食の為め自宅に帰つたものである。

五、少年と被害者の交友関係であるが、少年が昨年五月末転校したが友人もなく親切にしてやる者もないのを見て被害者がこれに同情して今年春頃より被害者の方から進んで友人となつてやつたもので、犯行の前夜も被害者は無料映画券を少年に呉れてやつて、共に映画見物に行つた程で、少年の為めには唯一の親友であつた。

六、少年が犯行に使用した切出小刀は、少年が手工用に買求め鉛筆削にも使用していたものであるが、多くポケツトに入れて居り、今年四月新学期の初め学校の運動場で友人と些細のことで争つた時、これを取出して振り廻したこともある。

七、最も重要視すべきは、少年が憤怒したとは云え、切出小刀で何等躊躇することもなく無雑作に被害者の胸部を突刺し、被害者が倒れても何等悔悟の色もなく、平気で平生と同じく食事に帰宅し、普段の如く食事して登校する態度である。

八、少年の性格に就て中学枝の回答書によると「暗い冷い性格、感謝とか言う気持は持つていない。秋空の如く気分が変る、都合が悪いことは絶対たずねても言わない、すてばち的なところを持つている」と記載されてある。

又岡山少年鑑別所の鑑別結果通知書にも「情調不快、抑鬱、内閉的で感受性に乏しく、その意味で冷情的である。加えて気分は変り易く対象(剌激)に依つては鋭敏な反応を示し、分裂性性格と考えられる。従つて平素、フラストレーシヨン、劣等感は内攻抑圧され、時に爆発的な発散解消が計られる。意志面持続の乏しい、慾意的で投げやりな面もあるが、年少者で未熟と考へられる。」と記載されてあつて、その見るところ表現に多少の相違があるが略一致するところである。

九、少年に対する処分であるが、少年に勿論刑事責任はあるが(刑法第四一条)未だ一六歳に満たないので、検察官に送致することはできない(少年法第二〇条但書)。少年の家庭の環境は、前記の如く良好でないばかりでなく、本件犯行後、少年鑑別所に収容前母の金を持出して無断で大阪市に行き曾根崎署に保護され警察の連絡により母が連戻したことがあり、実母の素行についても兎角の噂があり少年も家庭に於て異父弟姉をいぢめるとか、工場の屑鉄を持出して売るとか、家のものを持出す等の非行もあつて、今後家庭に於て少年を監護教育することは適当でない。又×××中学校転校以来欠席も少くなつて、登校して居るが、小学校以来怠け放題に怠け、特に中学一年生の時三分の二欠席し従つて学業も劣るばかりでなく、前記指摘した性格上、少年は普通学校に於ての教育に順応する能力に欠くものと云はざるを得ない。

一〇、さうすると、少年をして道徳観念を涵養せしめ、社会生活に適応させると共に、紀律ある生活を営ましめ且つ中学校の教科を履修させる為めには、初等少年院に収容するのが最も適当であると認められる。

一一、よつて主文の通り決定した次第である。

(適用法条)

少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項。

(裁判官 則井登四郎)

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